小説 リアルフェイス

13:ウインクをする 【リアルフェイス】

13:ウインクをする

【リアルフェイス】 リオ・アオ


「・・・・・ないっ!!」


まわりには何もない海辺に立つその建物は、青色と緑色が広がるだけの景色に、白色という未知要素を放り込み、その神々しさと奇妙さを一層に際立たせている。そんな素敵な住まいで、寝食を過ごすアタシの声が建物全体に広がった。予備知識だが、別にアタシの声がデカすぎるわけじゃない。この家が静かすぎるんだ。

今日は優雅な昼起きで、そのあとをタバコをふかしながらのんびりと過ごし、夕方の今になって少し東京のほうにでも出掛けようかと準備をし始めた矢先、それに気づいた。気づいてしまった。こみ上げてくる言葉はただひとつ・・・・・また、か。

ない。なにが?・・・・愛用のジッポが。


「はぁ、はいはい、またですか・・・・・・アオッ!!」


もう、これはなんというか、慣れというか。いや、こういうことは慣れてはいけない。慣れる=許すことにならないか?この事態は、誰がどう見ても許してはいけない事実だ。アタシは必要最低限の物しか置いていない自分の部屋を飛び出して、犯人の部屋へと直行する。



その犯人というのは、言わずと知れた悪ガキの同居人・アオである。あのガキは、めったにこの家から出ない。必要なものは全部、この家の主人であるアリアが用意しているからだ。なのに、アオときたら、なぜか世の中の流行りとか言うモノにうるさい。頻繁に都会へと出張のアタシよりも、だ。


そして今回、アオがハマったのが「お香」。

それからというもの、アオの部屋からは香の匂いがもうもうとたちこめ、その量といったら明らかに尋常じゃないものだし、明らかに使い方を間違っている。あれじゃ落ち着くどころか、逆に酸素不足で窒息死するだろうが。しかも、お香にハマるのはいいが、アオの流行は突然やってきてさらに準備がなってないせいで、お香に火を付ける道具がないらしい。

で、使うのがアタシのジッポだ。

常に身に付けているはずのジッポが、知らない間にアオによってコソ泥されている。考えられるか?5万のジッポだぞ?5万のジッポでお香を焚くヤツがあるか?


「アオッ!!おまえ、またやっただろ?!サッサとかえ・・・・なにやってる?」

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リアルフェイス 第一話⑥ 「タカ ト トラ」

強い夏の日差し。肌を焼きつけるそれは、とても眩しくて。青々としげる木々の葉と、騒がしいほどのセミの声。田舎特有の緑の匂いが美しく、時おり聞こえる風鈴の音が涼しさをおくる。

ここはどこ?見たことない風景。・・・・・あぁ、そっか。また、視てるのね。


「・・・つる・・・みつる!充(ミツル)ったら!早くおいでよ!」


あ、誰かが呼んでる。振り返ってみる。満面の笑顔で笑う少年が手招きしていた。その顔が本当にキレイで、こっちまで嬉しくなって頬が緩む。別段、急ぐ必要もないけど、走ってみる。


「ねぇ、ミツル。見てよ、これ。キレイだよ」


少年の傍に駆け寄ると、彼は嬉しそうに黄色い花を指差した。ヒマワリ。わたし達よりも、ずっと背が高い。見上げると丸い円盤の中に、タネをいっぱい付けていて、そのまわりを黄色い花びらが踊っている。

キレイだね、すごく。好きなの?


「うん!すっごく好き!こんなキレイな花ってないよ!オレね、将来ヒマワリだけの庭をつくるのが夢なんだ!」


そっか。それって本当にキレイだろうなぁ。おれも見てみたい。

あれ?わたし、自分のこと「おれ」って言ってる。そうか、「コレ」は男の子なんだ。眩しい青空から目を戻すと、彼はいない。きょろきょろと周囲を探せば、近くの川辺で大きく手を振っているのが見えた。足の速い子みたい。わたしは慣れない川辺をおぼつかない足取りで彼に近づいてみる。


「ほら、魚がいっぱいいるよ、ミツル!かわいいねぇ、キラキラしていてキレイ!」


キレイなモノが好きなの?ヒマワリとか、魚とか。


「そうだね。キレイなモノが好きなのかも。ミツルもキレイだよ!オレに嘘つかないし、なんでも出来るし。ミツルはオレの憧れ!」


クスクス笑う、その仕草がキレイで見惚れてしまった。本当に「キレイ」なのは、彼じゃないのかな。「この子」もきっと、そう思ってると思うな。ぼぉっと川の流れを眺めていると、ふいに波紋が出来る。隣を見れば、彼がバシャバシャと川の中に入っていた。


「うわぁ、気持ちいい。ミツルもおいでよ。一緒に魚とろう!」


え・・・でも、危ないよ?

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リアルフェイス 第一話⑤ 「タバコ」

早朝の靄がかかった日が木目を照らす。ほこりっぽいカーテンが少しだけ揺れて、埃がキラキラと光っている。清々しい冬の朝のはずなのに、全然気が晴れない。むしろ、心は落ち込むばかり。昨日から一睡もしてないのだ。


スゥ スゥ スゥ


おれの正面。黒板の下では、こんな場所に似合わない10歳の少年。なんの警戒もなく眠る少年を観察した。丸坊主にした頭、白のスウェットの上下、履き古した運動靴。昨日の夜、この教室に飛び込み潜んでいた、おれの前に不意に現れたのだ。最初は、幽霊かと思い飛び上ったほどだ。


『あれ?お兄ちゃん、何してるの?』


昨日のコイツは、まるで近所のお兄ちゃんに会ったかのような無邪気さ。気が抜けた。


『え?僕?僕は健太(ケンタ)っていうんだ』


ケンタと名乗った少年。なんでこんなところにいるのだと聞けば、ケンタは孤児らしい。早くに親に死なれ、今は施設に住んでいると。


『うん。でもね、施設ってつまんないんだ。だから、時々抜け出して探検するの』


今みたいに1人で3、4日ゆくえをくらます。そんなことをして施設の人が心配しないのかと聞けば・・・


『大丈夫だよ。だって、前に1か月くらい帰らなくても施設の人、警察に連絡もしてなかったし』


10才の少年が1か月も、ふらふらしていたこともイタダケナイが、警察に連絡しなかった施設も施設だ。本当に形だけの保護者なのだろう。そうして、ケンタは今まで何度も外で寝泊まりしているのだ。よくもまあ、事件に巻き込まれなかったことだ。いや・・・・・今回は巻き込まれたのかもしれない。


「・・・・・・ん・・・・んん」


ケンタが身じろぐ音に、ハッと現実に引き戻された。ここにきて2日目。廃校になった高校は、今までは廃墟になり果てている。誰かが見回りに来たりもない。秘密基地として子供たちが入ってくることもなかった。ケンタは例外だが。しかし、誰も来ないからと言って、堂々と火を付けるわけもいかず、この寒い風が吹く冬には少々心細い。


「・・・・・・ん~、あれ?・・・・もぅ、朝?」

「あぁ、朝だ。起きたか、ケンタ」


眠そうに瞼を擦るケンタに、出来るだけ明るく話しかけた。本当は、そんな気分ではないんだけどな。すると、予想通り、眩しいほどの笑顔がこちらを向く。


「おはよう、タケルお兄ちゃん!」

「・・・・おはよう」


タケル・・・か。元気一杯のうえ、幼いながらに勇気のあるケンタと違い、弱虫なおれはケンタにさえ本名を伝えなかった。純粋な心で接してくれているケンタへの裏切り行為のような気がして、胸がギリギリする。

とっさに口をついていた『タケル』という名は、おれの親友の名前だ。どうしてタケルの名前が出たのか、自分でもわからない。・・・・いや、本当はわかっている。あの時も、今も、俺の頭の中には『タケル』が渦巻いているのだから。それは、おれを責めるような声、失望した瞳。

全てが、怖い。

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リアルフェイス 第一話④ 「シンソウ」

ムソウ スワさんによる、ミウネ リオへの説教が始まってから約1時間半。この間に、リオが話したのは返事だけ。ムソウさんのマシンガンごとき、ご説教は一方戦である。

ボク?ボクは怒られる理由はないからね。2人の隣で座り心地の良いソファに座り、出してもらった紅茶と絶品ケーキ(ムソウさん秘蔵の)を頬張っている。ときおり向けられるリオからの恨めしそうな目線は全く気にしない。リオはムソウさんからの説教に、グッと我慢しながら苦痛そうな顔をする。

あぁ、いいねぇ、リオちゃん。ボクにとったら、その顔たまんないよ。


「聞いてるの、リオ?!何をどうやったら、こんなむちゃくちゃになるの?!え?!」

「いや、だから・・・」

「なによ?!言い訳する気なの?!まったく。あんたのおかげで死亡者リストがめちゃくちゃ!このリストに支障がないことを条件に、死亡者リストの状態を教えてあげてるっていうのに!!」

「う・・いや・・・・その」


美人オーナー、ムソウさんはデスクの上をドンドンと叩く。ムソウさんは、たぶん20歳後半で、かなりミニのスカートで上はブラウスを着ているのが、基本スタイルだ。ブラウンに染めたショートボブの髪。すごくすごく美人だけど、すごくすごく気が強い。しゃべりでムソウさんに勝てる人をボクは今までに見たことがない。


「だいたい、リオが人の話を聞かないからでしょ?!昨日だって、最後まで聞かないうちに出て行って。今日のニュースを見て驚きましたとも!自殺?!自殺ってなに?!大島タケルは、自殺じゃないでしょ?!」

「それは・・・・はぁ」


ここで初めてリオから、救助の目線をよこされる。ん?自殺じゃない?リオが怒られるのをもう少し見ていても良かったんだけど、せっかくの姫君からのSOSだし。それに、事件の方も気になった。


「ムソウさん。自殺じゃないって、どういうことですか?」

「ん?なに、アオは聞いてないの?」

「えぇ、ぜひ詳しい内容を聞きたいんですが。いいですか?」

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リアルフェイス 第一話③ 「エモノ」

ある商業ビルの3階にあるステーキ専門店。肉好きなオーナーの趣味丸出しな、ちょっとお高めな店。そこが、この忌々しいガキっ子と向かった場所である。田舎の家から着いたころには、空は冬の薄暗い夜空へと変わっていた。

エレベーターから3階へ。4階ではステーキ店のオーナーが、事務所兼住居として使っている。オーナーに会いに来たのだが、とりあえず先に店へ向かうことに。


「楽しみだね。ムソウさんに会うのvv」

「・・・・・」


輝かしい美少年スマイル全開のアオに、しらっとした目線を流す。ため息1つ出来ないうちに、エレベーターは3階フロアへ。少しだけ、現代科学の進歩を呪う。

エレベーターを降りるとそこはモダンな雰囲気のステーキ店。あえてカウンターのみの客席の前には、長く重い鉄板が陣取る。余ったスペースには、おしゃれなミニバーなんかも完備した大人の店であり、お値段もそれ相当する。かつて、アタシは1度も自腹で食べたことがない。というか、この店で食べたこともない。

そんなステーキ店は、開店30分前とあって、店員がせわしく準備に走り回っていた。その中に顔の利く、知人に声をかける。


「わるい。ムソウいる?」

「あぁ、リオさん。オーナーなら、事務所だよ。なんだか、機嫌悪かったけど何かしたの?」

「ん~・・・・まぁ、ちょっと」

「あれ?そっちの子、リオさんの弟?」


彼女は、アタシの後で珍しくも大人しくしていたアオを、不思議そうに見る。アオはアオで、あきらかに作り笑いの笑顔でにこりと微笑んだ。世間でいう「かわいい」アオに彼女のほうは、ほぉっと頬を染め、アタシはぞぉっとしながら青くなる。

あまりにおぞましい。普段のあの薄気味悪い笑いはどうした?!それともなんだ?これが世に言う「小悪魔スマイル」なのか?!


「冗談!違う、違う。コイツはただの同居人」

「へぇ。きみ、名前なんて言うの?」

「アオですvv」

「アオくんかぁ。かわいいねぇ。あたし、サトコ。よろしく」


おいおい。かわいいはないよ、サトコさん。コイツ、男だから。15歳だから。そして、なぜ照れるよ、ガキ。こんな人間らしいアオは初めてかもしれない。なんというかムズかゆくて、まるで別人だ。


「んじゃ、アタシたち行くから」

「は~い、また来てねぇ。アオくんも、今度は食事にね」

「はい!ありがとうございます!さようなら」


アタシの気分は、しら~っとしたまま、再びエレベーターで4階へ。


「ちょい、アオくん。なに、さっきの」

「何ってなにが?」

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リアルフェイス 第一話② 「ニュース」

タバコの煙が宙をまう。上へ上へとのびていく白いもやは、いつのまにか消えていくのだ。海に面した崖の上の家。1階の白で統一されたリビング。大きな足までのばせる1人掛けのソファにすわり、昼間の日差しがこうこうと照る海を1人、眺める。まるで何かのCMのワンシーンから引っ張り出したかのような風景に心がなごむ。


「あっ、リオ。今、起きたとこ?夜遊びなんてして、悪い子だね」


ちっ、人がせっかく精神の静寂に浸っているっていうのに、うるさいガキは関係なしにズカズカと入り込んでくる。男のくせに、ひょろっこい15歳の三羽根 蒼(ミウネ アオ)という名の小悪魔。コイツの口調は、いつも人を見下しているようでカチンとくるが、あくまでアタシは3歳も年上である。ここは、大人の良心で流してやろう。ふふん。


「うるさい。朝っぱらから、人食いザメと仲良く泳いでるようなヤツよりマシだね」

「え~、健康にいいんだよ。それにスーザンもすっごく、いい子なのに」

「げっ、人食いザメに名前なんかつけるなよ」


アオは鼻歌なんか歌いながら、大型テレビのスイッチを入れる。番組はちょうど昼のニュース。ベテランアナウンサーが次々にニュースを読み上げる。しかし、吸い込まれそうなくらい純に黒い頭が、邪魔で画面が見えづらい。あくまで、自分だけが見るつもりか、コノヤロウ。


「あっ、これじゃない?リオが見に行った、飛び降りの子って」


ひょいっと振り返った能天気なガキは、テレビを指差しながら、興味津々というように目を輝かせている。つまりは、昨夜のことを聞かせろと。そういうわけである。正直、昨夜の仕事は、いい終わりじゃなかった。心に引っかかるものが残ってしまい、歯がゆい。第一あの仕事は、まだ終わっちゃいないんだ。まったく、変なお荷物が残ってしまったのだから。


『昨夜未明、大手株式会社○○○の屋上から、この会社の社長子息である大島 岳(オオシマ タケル)さん、21歳、男性が転落しました。目撃者が少ないことから、詳細はわかっていないものの、大島さんの自室から遺書らしきものが発見されていることから、警察はこの事件を「自殺」とみて捜査しています』


映し出されたのは、昨夜、行ってきたばかりのビル。ニュースを聞いていたアタシが苦い顔をしたのをみると、アオは「ふ~ん」とうなずいて、勝手に何かを解釈した。こういうときのコイツは苦手だ。変に鋭い。

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リアルフェイス 第一話① 「トウキョウ」

本日は朝からあいにくの曇り空。夜にはとうとう雨に変わった。いや、こんな街と人々には、ちょうどいい天候なのかもしれない。

『トウキョウ』

それが、このブラックホールの名称である。


              ×××


ザァザァザァ ギィ


屋上のとびらが開く。外に出れば、雨雲がおおうほの暗い場所。ありがたいことに近くに派手なネオンは少なく、程好い灯りがぼぉっとアタシたちを照らし出す。ヘリポートを完備した45階建ての高層ビル。たしか、どこかの自社ビルだったはずだ。こんな無駄に高い建物を建てたがる輩の気がしれない。どこだったか、高い建物を建てて少しでも天に近づこうとした人々は、神によって破滅させられたじゃないか。


ザァザァザァ コツコツコツ



さっきといい、今といい。けっこう大きな音をたてているというのに、目の前の青年は、まだ気がつかないのか。それとも、気がついていて知らぬふりを?ふん、生意気な。まぁ、いくら鉄のとびらが開いた音や、ブーツがコンクリートの床を叩く音くらい、今の雨の量なら気づかぬとも不思議じゃないがな。あ~あ、せっかく新調したパンツタイプのグレイのスーツがおじゃんじゃないか。


ザァザァザァ コツコツ


「・・・・・・止めないのか?」

「なぜ?」


なんだ、話せるじゃないか。会話になればの話だが。ごく平凡な大学3回生、男。特徴といえば・・・・・靴をぬいでいるところか?おいおい、こんな雨の中で靴を履かないのはいただけない。


「きみ、親父に頼まれたんだろ?オレを止めてほしいって」

「いんや。違う。あんたの親父さんが、このデカブツビルの社長だろうとなんだろうと、アタシと親父さんは関係ない。アタシはアタシの私用」

「へぇ、そう。・・・・じゃあ、あれか。きみが例の『見送り人』?」


少しはアタシに興味がわいたのか、今まで見つめていたつまらない雨雲から、微妙にアタシへと視線を寄こす。茶色い髪が顔に張り付いている。表情がよめない。今現在、午前2時40分。


ザァザァザァ

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