その瞳に映るモノ 第5話-①
私が通う大川高校のあまり使われない校舎、つまり専門教室が密集した校舎には普段でも人影が少ない。そのうえ、今日は一学期期末試験最終日。いつも以上に人はいない。
ザザアアアァァァァ
その校舎にある女子トイレに私はいた。もちろん、私以外は誰もいない。洗面台のひとつには出しっぱなしの水が大きな音をたてて流れ落ちる。白い手すりに手を置いた私の手も、流れる水しぶきが濡らしていく。私の目は、ただひたすら流れ出る水を見ていた。
ザザザアアアアァァァ
『サキちゃん、すごいね!また、100点!すごいね!』
『そんなことないよ。メイは、どうだったの?』
『う~ん。またね・・・点数悪かったの。どうしよう、お母さんに怒られるかな?』
『大丈夫だよ。メイ、頑張ったんでしょ?頑張ったのに、お母さん怒ったことあった?』
『・・・ん~、ない!ないよ、サキちゃん!良かったぁ。頑張ったから、お母さん怒らないよね!』
『そうだよ。・・・・・メイのことは絶対に怒らないよ』
水が奏でる不規則な音のなか、昔むかしの古い記憶が聞こえてくる。現実という言葉をはじめて意識し始めた、あのころ。
ザザザアアアアァァァ
『どうしたの、メイ?こんな家の倉庫まで連れてきて。様子も少し変だし。熱でも出たの?』
『ううん、違うの。あのね、サキちゃん。あたし・・・・』
『うん?どうしたの?メイ』
『・・あのね。あたし、サトシと付き合うことになったの!』
『え?・・・・・・・・あ、そう。それは・・お、おめでとう。うん、すごいじゃない。良かったね、メイ』
『うん!ほんと!あぁ~、よかった。サキちゃんにいつ言おうがずっと迷ってたんだ。これですっきり!応援してね。サキちゃん!』
『ええ、もちろん。応援してるわ、メイ。たった一人の姉妹だもの』
自分の立ち位置をようやく理解したころ。私は自分の生き方を思い知らされた。生きるためには、すべてを見過ごすしかない。私は何に対しても意見してはいけない、自分の望みを言ってはならない。
ザザザアアアアァァァ
でも、本当は私だって・・・・。
ザザザアアアアァァァ
『サキ、よく考えてみろ。お前にだって選択肢はあるだろ・・・・・お前が自分で選べ』
嗅ぎなれた煙草の匂いと、煙。ゴミ箱のなかの銀色の指輪。
ザザザアアアアァァァ
「それ、楽しいのか?」
「・・・・・・・佐藤先輩」

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