小説 わかんねぇよ、お前なんか!

3:目を細める 【わかんねぇよ、お前なんか!】

3:目を細める


【わかんねぇよ、お前なんか!】 忍・蓮


ある夏の夜、俺の部屋には明かりがつき、テレビをあまり見ない俺には珍しく、液晶の画面からはこうこうと明かりが照らされていた。パッパッと無駄にテレビのチャンネルが変えられていく。リモコンで操作している本人といえば、ぼぉっとした焦点の合わない眼で画面を見ていている。本気で見る気あるのか、こいつ。俺はないぞ。



「おい、蓮。見る気ないなら消せよ。勿体ないだろ」
「ん~・・・・」




曖昧な返事にあいかわらず、その動作をやめない奴にため息をついた。椿本蓮(ツバキモトレン)。放浪癖のある俺よりも年下の、金髪にピアスのチャラ男。今回だってついさっき突然、俺のマンションにやってきて「泊めろ」といってきやがった。一か月ぶりに会った他人に、開口一番その命令系はなんだ。そう言って、腹を立てて追い返すこともできるのだが、俺にはそれができない。

なぜなら俺は、このだらしない男・・・・蓮に惚れてる。

高校時代から年下の癖に生意気で、普段の俺なら絶対に気の合わないようなコイツと、いつの間にやらそういう関係になってた。今ではふらりとやってくる蓮を2・3日、長くて一週間泊めてやるのが常時となってる。だからって別に、俺たちは付き合っているわけでもない。ただ、セックスして泊めてやるだけ。

蓮はだらしないくせに絶対に自分の心を見せないから、何を考えているかもわからない。ただ、俺のことを都合のいい宿としてしか見ていないのかもしれない。そのくせ、俺が蓮に惚れていることだけはしっかり見抜いていて、それには一切触れないのにこうして家に来ることをやめないのだ。


「ちょっ、眠いなら無理してないで、さっさと布団で寝ろよ。こんなとこで寝られたら邪魔だ」
「ん~・・・忍(シノブ)ぅ」



リモコンを握り締めたまま、床にゴロっと横になろうとする蓮の肩を引いて布団へ促す。が、逆に今度は俺の方にのしかかるように寄りかかり、その重い体重が細身の俺へとのしかかる。うっ、なんでコイツ年下の癖にこんなにデカくなってんだよ。お・・重い。今日の蓮は来た時から、珍しく酒も飲んでないのに疲れた様子で眠そうにしていた。これ以上は限界だろう。


「なぁ、オレってさぁ。・・・・・優しくない?」
「え?はぁ?蓮、なに言って・・・・・・蓮?」



俺にのしかかった蓮が、無言のまま俺の背中にグッと手に力を入れる。疲れてやってくるコイツも珍しいが、ふざけるわけでもなく、本気で甘えてくる蓮は珍しすぎる。バカにして笑い飛ばすわけにもいかず、とりあえず昔妹にしたように蓮の背中をポンポンとなだめてやる。


「なんだ、どうしたんだ。好きな女にでも言われたのか、優しくないって」
「・・・・・ううん、違う。ダチ。・・・・・ダチが、オレがオレを好きなヤツに優しくないって言いやがる。気にくわない」
「あ~、そりゃ、まぁ、蓮は相手がどう思ってようがなんだろうが適当だからな。仕方ねぇだろ」
「違う・・・そういうのは、相手も適当にしてるヤツ。ダチが言ってんのは・・・相手が本気のヤツ」

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わかんねぇよ、お前なんか! 第四話

キーンコーンカーンコーン


昼休み開始のチャイムを聞きながら、俺は大きなため息をついた。こんなに疲れる1日は初めてだ。朝の職員会議は修学旅行の予定もあってか、いつも以上に長引き、やっと解放されたかと思えば、毎日のかすり傷やら何やらでいちいちやってくる生徒の嵐。そのうえ、さきほど体育の授業があったクラスでは、勝敗の問題でケンカに発展し、2人が殴り合いを始めた始末。おかげで、まだ大丈夫だと思っていた消毒液が、みごとに無くなってくれた。


「ガキってのは、どうしてああも元気かね」


誰もいない保健室で、うわ言のように呟いた。昨日は、バカ蓮(レン)の襲来でいやな神経と体力、使ったっていうのに。

だいたい、アイツは何考えてるんだ。今朝は忙しくて、あまり探る時間がなかったが、急にやってきて「ここに住む」だ?今までだって、突然の訪問で、次の日にはいないっていうのが普通だった。なのに、今回は「住む」って言っていた。「泊まる」じゃなくて、「住む」と。

「住む」ってことは、・・・ずっと?


「いやいや、ないだろ。だって、あれだぞ?普通に女3人、掛け持ちするようなヤツだぞ。そんなヤツが1人にとどまるわけないだろ。しかも、俺?・・・・・まさかな」

「なぁ~に、ひとりでお喋りしてんの?シノちゃん?」

「うわぁああ!!」


きりのない自問自答をしていた俺の背後に、ひとりの男がぴたりと張り付いていた。思わず、柄にもなく悲鳴をあげちまったじゃないか。ドッと疲れを感じた俺が、いやいや振り返れば男なのにお花なんて飛ばしている、へにゃ男、持田 英知(モチダ エイチ)。通称、科学室のお華ちゃん。なんちゅうネーミングだ。


「なぁんかさ、ひとりで百面相してるのが見えたから、ついつい寄っちゃったvv」

「あのなぁ、・・・・英知。24の男が会話の語尾に、ハートなんかくっつけんなよ。そして、頼むから花を飛ばすな」

「えぇ?別にお花、飛ばしてる気はないけどなぁ」

「あ・・・そぅ」


天然なのか、わざとなのか。喰えない男、持田 英知。こいつは、この高校の科学教師。そして、俺とは高校生時代のころからのダチ。俺と英知は、俺たちが働いているこの桜場高校の卒業生。全寮制だった高校で、英知と同室だったヤツは、3日で5キロ痩せという伝説を残している。


「んで?何のこと言ってたの?」

「あ~、うん。まぁ・・・・」

「ははぁ~ん。蓮ちゃんのことだなぁ」

「うっ・・・・」

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わかんねぇよ、お前なんか! 第三話

朝起きる。今日は、記憶に残らない朝じゃない。キングサイズのベッドで、隣にバカみたいに口開けて寝息を立てているヤツ。

これって、喜ぶことか?

シーツから出てベッドに座りながら、気に入っている煙草に火をつける。手のひらの火をつけたライターを見つめる。これ、コイツから貰った唯一の品だっけ。蓮(レン)から、貰ったライター。もう、擦り切れている。

淡い水色のカーテンから、春の暖かい陽射しが差し込んでいる。ベッドの側にあるサイドテーブルに、ライターを投げた。アホらしい。自分のことながら、いつまで持ってるんだ。こんなの、やった本人は覚えちゃいないのにな。俺も本当に健気なヤツだと思う。すべてに無関心に見えて、実は思い出とか贈り物とか、ちゃっかり大事にしてしまうタイプ。いい加減で、自分1人でも生きていけるような男のようで、いろんなものにすがってひ弱な男だ。


「ん~・・・・・・・かおりちゃ~ん・・・」


くそがっ。よくも隣で裸の男を抱いておいて、女の名前を幸せそうに呼べるよな。昨日の夜は、当たり前のように抱かれた。こちとら、久しぶりだっていうのに手加減なしに、突っ込みやがって。とりあえず、合意ということでやったっていうのに、こっちは強姦されたような気分だ。優しさのカケラもなく、そのうえ幸せなはずの朝に知らない女の名前を呼ぶようなヤツ。


「この俺に愛想つかされないお前は、ほんとに幸せ者だぜ」


煙草の煙を見つめながら、つぶやいた。今日も仕事だ。そんなことなんて何も考えていない蓮だ。身体の節々が痛くてしょうがない。シャワーを浴びないと、身体中がベタベタする。ヤツは、ゴムなんて付けてはくれないし、さらには中出しもなんのためらいもなくしやがる。それなのに親切に後処理をしてくれるわけでもなく。結局、出された俺が自分で掻き出すことになる。


「覚えてろよ、ほんとに。いつか、殺してやる」


出来もしないくせに。

ヤツの声が聞こえてきそうでやんになるが、幸い当の本人は夢の中で『かおりちゃん』だかとよろしくやってる。煙草の火を消して、ゆっくりベッドから立ち上がり、風呂場へ向かう。途中、身体の不自由さと、中の気持ち悪さで台所の手すりに手をついたが、とりあえずは風呂場に入れた。



簡易バスは質素なもんだ。シャワーで湯を出すと、数時間、使っていなかった風呂場に湯気がたつ。
立っていると足を伝って流れさすアレが、気持ち悪い。自分であんなところを触るのは気持ち良いものじゃないが、出さないと下痢る。高校の保健医が精液で下痢とか、本気で洒落にならない。


「ッ・・・・・・くっ・・・・・は・・・クソッ!」

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わかんねぇよ、お前なんか! 第二話

桜場高校の3年生だった、俺。昔から、性格も曲がってたけど、面倒見が良くて、悪口言いながらもついつい最後は世話を焼いてしまう。俺はそんな、周りに頼られるようなヤツだった。

その日も、生徒会役員を引退しても、未だに仕事を任されていた俺は、入学式の式典の中心メンバーでもあった。でも・・・・・・それが、いけなかったんだ。

断っておけばよかった。入学式の準備なんて関わるべきじゃなかった。あの時、同級生と同じように、遊びに行っておけばよかったんだ。

そうすれば・・・・・・・・あいつに会うこともなかったのに。





「へぇ、逃げなかったんだ」


ふいにかけられた声に、俺はビクリと震えた。ジーパンに上半身裸で、タオルを一枚肩に下げているだけの格好。金髪の髪の毛に雫がついていて、耳に伝ったそれが右耳のピアスを濡らす。


ちょっと悪そうで、強い男の雰囲気がする男。椿本 蓮(ツバキモト レン)。あのころも、今も、ずっとモテる男。こいつの周りには、いつも女が絶えなかったっけ。


「逃げるも何もないだろう。ここは、俺の家だ」

「クスクス、そうだった。そうだった」


怖いほど睨み付けてやったのに、こいつには何の意味もなさない。嫌いだ、こんなヤツ。情けなくも体育座りをした俺の隣に、アイツはドスンと腰を下ろした。ニヤニヤ笑いやがるアイツ。普通の女が見れば、誰でも好きになりそうなヤツ。

嫌いだ、こんなヤツ。嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。・・・・・・・・・・・気付けよ、バカが。

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わかんねぇよ、お前なんか! 第一話

「河崎先生は、ご結婚とかしないの?」


隣から何の前触れもなく言われた言葉に、俺はしばし唖然とした。私立桜場(サクラバ)男子高等学校の職員室の放課後は、いつものように慌しい人の波であふれている。明日の教材の準備をしている教師や、何かのようで職員室を訪れている生徒。

そんな中で、保健医の俺、河崎 忍(カワサキ シノブ)は、数学教師の千葉 春樹(チバ ハルキ)という男に唐突な質問を問いかけられている。


「どうしたんですか、急に。千葉先生こそ、結婚なさらないんですか。今、28でしたよね」

「うん、まぁね。生徒に手を出すくらいだったら、一生独身でもいいや」

「はぁ・・・・」


一瞬で、この間、生徒との恋愛が原因で退職していった教師のことを言っているのだと悟る。ここは男子校。そのうえ、その教師も男性だった。一般の感覚の千葉先生なら、嫌悪してもおかしくないな。いつも、にこにこと微笑み、顔も良い千葉先生は、生徒からの信頼もあつい。だからと言って、心の中まで良い人とは限らない。もう、3年も保健医をしてれば、人の内面もみえてくるってもんだ。


「でさ、河崎先生、モテるだろ?そのビジュアルだし、頭もいいし。そのうえ、あの河崎家の人間だし。たしか、24だったよな」

「はぁ、そうですけど。河崎の家は関係ありませんよ」

「ふぅ~ん」


意味ありげな反応。まだ、疑ってるな。

確かに、俺の家系は美形が多い。俺もその流れに逆らわず、人形のようにスラッと鼻が高く、目も少しキツイながら整っている。黒髪もサラサラと流れ、体系も細すぎず無駄な肉はない。狙ったわけではないが、いつもかけている眼鏡は好評である。そのうえ、金持ちの家ってこともあるが、それは関係ないだろう。それにしても、少し職員室に寄るだけにしようと思っていたのに、こんなところでエライものに捕まってしまった。



「でもさぁ、同棲してる子くらいはいるっしょ?カワイイ子?でも、河崎先生だから、クールな年上お姉系?」

「いませんって!千葉先生、キャバクラ行きすぎですよ。それに、俺は結婚なんてする気はないですから」

「えぇ、そうなのぉ?彼女がいないなら、良い子紹介してあげようと思ってたんだけどな。そうか、結婚しないのか」

「そうです!もう、失礼します。では、お先に」

「おぅ、結婚する気になったら、いつでも言ってくれよぉ」


面倒な上司から、逃げるように職員室を出て、自分の車へとはんば小走りで向かった。あの人は、どうも苦手だ。俺は、学校内でも有名なクールで美形な男なのに、あんな変に探られると胸焼けがする。

そうだ、俺は結婚なんてしない。顔もいいし、頭もよく、性格はさておいて、ほぼ完璧な俺が何故この10年近く女をつくらないのか。そんなの決まってる。

俺は、ホモだから。

物心付いたときには、同性しか恋愛の対象に見ることが出来なくなっていた。それは、家が気の強い女性ばかりで、女にはコリゴリだったのか、生まれつきだったのかはわからない。とにかく、俺は女には興味がなかった。今も進行形だ。男子校に就職したのは、生徒に手を出すためじゃない。俺はガキなんて興味ない。

車の中で、イライラしながら片手で煙草に火をつけた。


「・・・・ヤバイな。最近、本数増えてる」


『彼女がいない』だって?そうさ、俺には恋人なんていない。たとえ、同性が好きであろうとその手の場所に行けば、美形の俺がモテないはずがない。でも、俺はそうしなかったし、そうしない。

高校3年の、あの時から・・・・。





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