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策略ロマンス 第12話

いやはや、時がたつのは早いもので、あたし河崎 叶(カワサキ カナエ)が高橋 一成(タカハシ イッセイ)に宣戦布告をしてから、1週間が過ぎていた。桜の花も散り始め、キレイな緑色の若葉が少しずつ顔を覗かしている、そんな時期になっている。

にしても・・・・・一成のヤツ、覚悟はしていたけど想像以上に・・・・キツイ。かなり面倒である。毎日、毎日がそれこそ戦争で、出来ることなら学校に戦車でもなんでも運び込みたいくらいだ。保健室の一連の事件から、ことあるごとに仕掛けられる罠とワナ。さすがは学年トップなだけある。この天才的な脳の持ち主であるあたしでも、引っ掛かりそうになっていたのだから。


「いや、実際引っ掛かっちゃったんでしょう?その一成くんの罠に」
「・・・・・・・相変わらず、矢野ちゃん(ヤノ)のお言葉はグザグザくるよね。ほんと、それって才能よ、ある種の」



我が家の仕事場で、あたしは日ごろの疲れからマイパソコンくんに寄りかかっている状態。そして、書類整理をしているのが久しぶりの登場のくせしてやたらと服装が派手な、スパルタ編集者の矢野 幸一(ヤノ コウイチ)氏である。どうもあたしは、知らずの間に脳内劇場が勝手に表に出ている節があるらしく、こうして矢野ちゃんにも極悪非道の一成のことを話しているわけで。


「ねぇ、なんで今日、そんなに派手なわけ?突然、家に寄ったかと思えば、仕事してますかぁ?って」
「これですか?実は、今日これからデートなんです。そのついでに先生が仕事してるかどうか、ちょっと寄ったんですよ」
「デート?だから、今日はそんなご機嫌なわけ。・・・・・・・・・・っつかさ、その恰好で?」
「え?いけませんか?自分では、似合ってると思うんですけど」
「いやね、イケないっていうか。むしろ似合ってるんだけど。それは・・・・・」



今日の矢野ちゃんの恰好は、どう考えても一端の編集者とは思えない。白スーツの上下に、中はパープルの淡いシャツ。それに合わせてパープルのカラコンなんかいれちゃって。前にも言ったけど矢野ちゃんは、かなり男前だと思う。身長も高いし、甘いマスクもぐっとくる。でもだね、矢野ちゃん。その恰好でデートって言うのは、デートって言うよりも・・・・・。


「出張ホスト・・・・・」
「ええぇぇ?!なんですか、その例え!ちょっと酷くないですか?!俺ってそんなに遊んでそうに見えます?!」
「遊んでないのは知ってるし、前々からホストっぽいなぁっとは思ってたけど。その恰好するとますますホストだよね。うん、蓮香さん(レンカ)もすごいヤツを相手にしてるよ」
「なんですか、それは?蓮香は似合ってるって言ってくれてるんですよ?何がいけないのかさっぱりですよ」



意外なところで天然を発掘したのは、脇によけてっと。もしかすると、あんなバカなことに才能を使う一成よりも、まだ天然ホストの矢野ちゃんのほうがマシかもしれないよね。


「それで?先生の方は、最近どうなんですか?一成くん、どんな罠を仕掛けてくるのか、ちょっと興味ありますね」
「それがさぁ、もう本気で大変なのよ。よくそんなこと実行できるねぇって感じ」
「例えば、どんな?」
「例えば、5日前には全校生徒の前で、自分とあたしが付き合ってるっていうことを盛大に宣言してのけて、そのうえ全校生徒の前で熱烈なキスなんかカマシテくれちゃって。当然、次の日には校内新聞の一面をバッチリ飾られた」
「はぁ、それはまた」



あれは肉体的にというか、精神的にやられたね。まさか昼食を食べていた中庭に突然やってきて、生徒の多い場所で「叶は俺のです!」とかなんとか宣言してくださるとは。血の気が引くとは、まさにあのことだね。隣にいた圭(ケイ)は友人のキスシーンなんて見せられて、その日ずっと機嫌が悪かったし。


「3日前は校内放送で、生徒会室に呼ばれて危うくヤラレかけた。しかも、途中で先生に見られて「場所くらい考えてくれよ、高橋」っていう一言で軽く流された」
「・・・・・・・・・・」



2年の時に生徒会長をしていた一成は、現後輩会長に生徒会室を開けろと、はんば脅迫しながら譲ってもらったらしい。それに2日前に全校の前で恋人宣言をしている一成に、先生も別段止めるわけでもなく、本当に軽くあしらわれてしまった。ちょっとちょっと、そんな哀れなモノを見る目で、あたしを見ないでくださいよ。矢野ちゃん。


「すいません、今かなり蓮香に会いたい気分です」
「だろうね。わかるよ、その気持ち。・・・あ~、あたしだってさ、恋愛がしたいって言ったけど、何もあんなドギヅイの回してくれなくても」



はぁ、とため息をついてみせると、ソファで書類整理をしていた矢野ちゃんが、なぜかダンマリ考え事を始めてしまった。珍しく真剣なホスト姿の矢野ちゃんに、これはもしやベストショットなのでは?とかなんとか関係ない思考が浮かんでくる。すると、あたしの妙な視線に気がついたのか、矢野ちゃんが顔をあげた。


「なんですか、その顔。ちょっと止めて下さいよ、セクハラは」
「誰が、セクハラか。疲労でボロボロの先生様を癒すのも、立派な編集者の役目です。って、そんなことじゃなくて。なに考えてたの、矢野ちゃんは?」
「・・・・思ったんですけど、先生って流されやすいタイプなんですね」
「え?そう?・・・・・・・あ~、う~・・言われてみれば、そうかも」



今までの失態を思い出して、自分が流されやすいタイプなんだと再確認させられる。というか、よくよく考えてみるとあたしって最初の最初っから一成に流されて、あと一歩って言うところでなんとか難を凌いでるって感じではないですか?ということは、一成に取り込まれるのも時間の問題?だから、一成はいつでも余裕綽々?うわぁ、ますます策略家だわ、アイツ。


「わかりました。お疲れになった先生を癒すのも編集の仕事ですよね。ちょっと、こっち来て下さいよ、先生」
「ん?なに?なんで?」
「いいから。先生をリラックスさせてあげるんです」
「おっ、えらいね、矢野ちゃん。さすがは編集者の鏡!」



こっちこっちと手招きされるままに、矢野ちゃんが座っているソファの隣に座る。にっこり微笑む彼と並んで座っていると、本当にホストクラブにやってきたみたいだ。もしかすると、これからドンペリコールですか?ちょっと、顔が緩んでみたり。


「で?どうするの?」
「えぇ、すっごくリラックスできる方法です。・・・・・・すっごく、ね」
「・・・・・へ?・・・ぁらら?」



グラリ、ドサッ


一変にして視界の情景が変わり、目の前には楽しそうに微笑む矢野ちゃんがいて、その後ろには見慣れた天井?サラリと流れる彼の髪が少しだけ頬にかかる。背中には馴染みのソファの固い感触。あの・・・えっと・・・これっていったい・・・?というか、これは所謂押し倒されている状態?


「やっぱり学生とは経験値が違いますからね。すっごく気持ち良くさせてあげますよ、センセ」
「・・・・・・・や・・やの、ちゃん?」



気持ちよくって、コッチのことだったんですかぁぁああ?!驚きまくりのあたしに、それこそ余裕綽々の矢野ちゃんは一成と違って、ふんわりと微笑んでいて全て任せたくなるような・・・・。って!それじゃあ、ダメでしょ!今までと同じじゃん!!これが、流されやすいってことなのよね、きっと!!


「だだだだ・・だああダメだよ!!矢野ちゃん!!ああ・・ああたしは小説家の先生で、矢野ちゃんはへへ・・編集者でしてね」
「くす、噛みすぎですよ、センセ。そんなんだから、流されるんじゃないですか?まっ、楽にしててください。リラックスさせますからね」
「ひひぃぃぃいいい・・・や・・やのちゃん・・・」



にっこり・・・じゃねぇよ、バカ!でもこれがなかなか居心地がよくて、抜けだせない。矢野ちゃんたら、慣れてない?やっぱり、これが大人の余裕ってヤツなのかぁぁああ?!


バンッ!!


「叶!!」


とか何とか思ってたら、いきなり書斎のドアが開いてそこから魔の元凶の・・・・い・・一成?!なんだか慌てた様子で息なんか切らしちゃって、こっちのドスドスやってくる。その間も未だにあたしの上に乗ったままの矢野ちゃん。え?ちょっと待って。一成、・・・おお・・怒ってる?


「てめぇ、俺の叶に何してんだよ?!」
「ふぇ?!・・い・・いっせい?!な、なにしてんの?!」
「なにしてんのは、こっちのセリフだ!てめぇ、さっさとそこから退けよ!!」



突如、現れたはなんと先ほどからの話題の中心、高橋一成だった。いつもクールで嫌味なほど自信たっぷりな一成が、今は髪も乱れて息も切らして声を荒げている。コイツ、こんな顔もするんだ。この状況を一瞬忘れ、あたしも茫然とそんなことを考えていたのである。

って、そんなことじゃなくて!!そうだ、一成!とりあえず、なんであんたがココにいるかとかは置いておいて、今はこのタイミングバッチリよ!!


「はぁ・・・王子様登場ってことですか。しっかし、タイミングもピッタリですね。まっ、これでわかりました。彼、先生のこと遊びではないみたいですから。良かったですね、先生?」
「え?あ・・はぃ?」



にっこりとほほ笑みながら、何事もなかったかのように矢野ちゃんはあたしの上から退いて、あたしのことを起き上がらせてくれる。なんだい、この状態、この空気。ぽかんとしているあたしや、怒りに顔を真っ赤にさせてる一成、そして平然と「良かったですね」と笑いかける矢野ちゃん。


「いやいや、意味分かりませんから。なにがどの辺的に良かったのでしょうか?という、矢野ちゃん、あなたは何をしたかったの?」
「なにって・・・・先生が、一成くんが本気かどうかわからないって不安そうにしてるから、その辺をはっきりさせてあげようかなぁと思っただけです。で、良かったですね。彼、どうやら本気のようだし」
「は・・・はぁ・・さいですか」



うわぁ、どうしよう。納得しちゃったよ。だって返す言葉ないし、ふ・・不安とかどうかしならないけど、未だに一成がからかってるんじゃないかって思ってたのは確かだし・・・。とか何とか思ってたら、一成のヤツが平然としている矢野ちゃんに掴みかかっていた。ホストみたいなスーツ姿の矢野ちゃんに突っ掛かる、制服姿の一成。う~ん・・・・修羅場?


「あんた、ナニモンだよ?叶に何してた?!俺の叶にちょっとでも手ぇだしてみろ、・・・・マジで許さねぇ」
「別に何もしてないよ。ちょっと押し倒してみただけ。それに、キミが来るって確信してたから、これ以上は何もする気もなかったしね。キミが先生のこと、そんなに必死になるくらい大切にしてくれていて良かったよ。・・・・・・彼女はオレが見つけた、一番の作家だ。大切に出来ないヤツに、オレは渡す気はないよ」
「ッ・・・・・・」



矢野ちゃん、そんなふうに思ってただなんて。そう言えば、ほんの少し昔、なんにもなかったあたしに小説家への道を開いてくれたのは矢野ちゃんだったっけ。彼から飛び出した意外な言葉に、一成も息をのんで言葉に詰まる。

んで、この何とも言えない沈黙を破ってくださるのが、これまた矢野ちゃんでありまして。矢野ちゃんは掴まれていた一成の腕をそっとどけると、荷物をぽんぽんと持って部屋の出入り口まで行って、こう言った。


「ちなみにですけど、オレ、ロリコン趣味はありませんから。じゃっ、仕事してくださいね、センセ」
「「・・・・・・・・・・・・」」



パタン


呆然と取り残されたあたしたちには、虚しくもドアの閉まる音だけが残されたのだった。

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